【列島通信★山形発】保存と発信、その先へ ~YIDFF「311ドキュメンタリーフィルム・アーカイブ」開設 text 畑あゆみ

『宮戸復興の記録 2011〜2013』より(監督:飯塚俊男)

今回のイベントでは、まずアーカイブプロジェクトの具体的な方針と実施状況について短くご紹介したのち、飯塚俊男監督のゆふいん文化・記録映画祭2014松川賞受賞作『宮戸復興の記録 2011~2013』(アーカイブ収蔵作品)の上映と監督Q&Aを行なった。宮戸島の人々のくらしや「えんずのわり」などの昔ながらの風習を、震災前から昨年まで長期にわたり実直に記録したこの作品は、まさに土地の文化を「映像に残すこと」の本来的意義を改めて私たちに感じさせてくれる中編であった。トークセッションでは、宮戸島から来てくださっていた縄文村歴史資料館の職員の方にも登壇いただき、監督とともに、奥松島に残る文化遺産と資料館についてお話いただいた。

その後休憩を挟み、マーク・ノーネス氏による講演「震災をアーカイブ化する」へと移る。関東大震災の事例を見てもわかるように、「メディア化された震災」表象は過去にも存在したが、今回の大震災はその中でも最も「メディア化」が著しい震災であった。カメラがあらゆる場所に偏在し、『311』のように複数の視点が一つの作品のなかで互いに闘っているような作品も出ている。YIDFF「ともにある」で上映された作品群を見ると、「震災の大きさ(magnitude)を映画でどれくらい表現できるか」という課題に対して作家がさまざまな立場からアプローチしていることが分かり、観客は震災をそうした表象を通して追体験し続けている、とまとめられた。

その後すぐに3人の登壇者を迎え、パネルディスカッションに入った。開沼博さんからは、ご自身の福島をめぐる多岐にわたる研究・活動の中から、福島の人々の証言(オーラル・ヒストリー)のアーカイブ化と「課題発見、解決、交流」のサイクル化の取り組み等についてご紹介いただいた。証言を集め続けるだけではだめで、今後、関係ない人が被災地の問題に関わっていく状況をいかに作るか、行動へと結びつく、具体的な解決策へと向かう志向が大切ではないか、という提言をいただいた。また神戸の高森さんからは、阪神淡路大震災以降20年にわたり継続してきた手記収集事業の経験をもとに、「残ったもの」「残らないもの」についてお話いただいた。「阪神淡路大震災」という人口に膾炙した大文字の名詞の影で、被災者の「あの日」の経験がその一部となり、あるいは忘れられ、後づけの概念に収斂されてしまう危険性がある。「あのとき」をそのまま表現すること、間をおいて紡がれる手記に現れた矛盾や、あるいは表現することそれ自体をやめること、その意志そのものをむしろ残していくことの大切さを忘れてはならないだろう、とのお話だった。

それぞれの活動の現場から生まれたこれらの貴重な知見は、東日本大震災の記録を残そうと活動を続けるあらゆるアーカイブにとってとても有益なものだ。とりわけ、単にモノ/データを集め残すこと以上に、その集積を今後どう社会の中で生かしていくか、具体的な活用へと結びつけることができるかを考え続けることの重要性を、改めて教えられた。作品情報が集積するにつれ、いまだ記録されていない震災の経験、その「偏り、空白」(開沼さん)や「残りにくいもの」(高森さん)の存在が次第に見えてくるかもしれない。そのような、漏れてしまう、外れてしまう部分をどのように見つけ、アーカイブに反映させていくか。始まったばかりのこのアーカイブにとっていまだ漠としたものではあるが、作品を集めていく上で常に意識しておくべき視点のように思われた。

加えて、未来に作品を残す意義という点では、前回映画祭2013のアーカイブについてのディスカッション*での、映画批評家・研究者の三浦哲哉さんによる「視覚的無意識」のお話、過去作品の上映・視聴による価値の再発見のお話も重要だろう。一本の映画に記録された対話や表情、しぐさ、景色、カメラの動き等には、作り手が表現しようとしたメッセージや物語に集約されない何かが捉えられている。それを、時間をおいて見る、製作当時とは違う時代背景や社会状況の中で見ることで、ひとはその都度新たな何かを見出し、受けとることができるだろう。3.11の記録映画を100年後の人々が見るとき、今の私たちが思いもよらないような要素を映画のなかに見つけるかもしれないし、100年後でなくても、震災直後と3年半後の今とでは、同じひとでも震災の表象に対する感じ方はすでに大きく変わっている。さらに、収蔵作品をただ見せるだけでなく、実験的で創造的な見方を提案するプロジェクトも海外の一部の映像アーカイブで行なわれているようだ**。時を超え、より積極的・介入的な方法で、収蔵作品と現代、未来の人々とを出会わせることが、アーカイブの役割として今後も求められていくにちがいない。

数年ごとに必要となるマイグレーション((製作者の許諾を得ての)別の媒体への映像の複製)の難しさや今後の資金・人手確保などは、国内全てのデジタルアーカイブ、映像アーカイブ事業にとって悩ましい問題である。それらを何とかクリアしながら、継続的に見られ、使われ続けるアーカイブとなることを目指し、地道に収集・保存事業を続けていきたい。またこのアーカイブの活動報告会やディスカッション、上映会は今後も引き続き行なっていく予定だ。

 *YIDFF2013「ともにある Cinema with Us」ディスカッション「震災をめぐるドキュメンタリー映画のアーカイブ」の採録冊子は、11/29のシンポジウム参加者に配布している。2015年1月中にはそのPDF版をアーカイブのウェブサイトに掲載予定。ぜひダウンロードしてお読みください。

 **例えば、数多くのアートフィルムが収蔵されているドイツのアルセナール映画・ビデオアート研究所は、「アーカイブされたコレクションは現在において活用・実践することに意義がある」との考え方に則り、2011年から2年にわたり「Living Archive」プロジェクトを実施。外部の批評家、映像作家、音楽家らをゲスト・キュレーターとして招き、彼らの独創的なアイディアのもと収蔵作品約300本を自由に上映・展示し、討論会やパフォーマンスを行なうなど、より革新的で多様なアプローチを提案している。

11/29アーカイブ開設記念シンポジウムより(阿部マーク・ノーネスさん講演)

 YIDFF「311ドキュメンタリーフィルムアーカイブ」

http://www.yidff311docs.jp

 ※作品の登録は随時受け付けています↓

http://www.yidff311docs.jp/?page_id=109

【執筆者プロフィール】

畑あゆみ(Hata Ayumi)
認定NPO法人山形国際ドキュメンタリー映画祭事務局勤務。「311ドキュメンタリーフィルムアーカイブ」担当責任者。来年度映画祭2015の準備も着々と
進んでいます。インターナショナル・コンペティション第一次締切が過ぎ、既に多くの作品が届いています。最終締切は4月15日です、皆様の力作をお
待ちしています。(※アジア千波万波部門の最終締切は5月15日です)

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